freedom

 

僕が、東京大学に合格した時の話。

もう今から遠い遠い昔の話。

 

自分でもだいぶ変わってるなと思うけど、

受かってからの方が何倍も不安だった。

 

高校3年生の夏の頃、東大を目指すってなった時に不安になった。

自分てほんとに東大でやっていけるのだろうか、

そもそも東京で生きていけるのか。ずっと田舎育ちなのに。

でも、そういう不安を一旦ぜんぶ払拭して勉強に集中した。

 

受験勉強ってすごく都合が良くて、

勉強さえしてれば他の不安なことが全部なくなってくれるから。

 

もちろん、入試の日の朝は不安だった。

緊張して朝食にレタス2枚しか食べられなかったくらい。

でもそれも初日の試験が終わるころにはすっかりなくなって、

東京にしかないアイスクリームが食べたいと友人に駄々をこねていた。

 

それがどうしたことでしょう、

合格発表の直後から強烈な不安が蘇ってきてしまった。

東京に行きたくない。東大なんて自分には無理だ。

怖い。このまま地元にずっと残りたい。

 

恋人みたいにいつも一緒にいた友人は東大に落ちて、

本当にたったひとりになってしまった。

3月末、東京行きのチケットは、両親は往復だけど僕は片道。

そのチケットを見るたびに涙がこみあげてきた。

 

 

誰に相談しても、笑って、

「お前は東大に行っても大丈夫だよ」としか言ってくれなかったけど、

たったひとり、おばあちゃんだけは、

「きつかったら東大なんかやめちゃえばいいのよ」と言ってくれた。

 

「なんで?」と僕が聞けば、にっこり笑って、

「あなたは東大なんかやめてもどこへでも行けるから。あなただから。」

と言ってくれた。嬉しかった。

その言葉があったから、僕は東京に出ることを決めた。

 

それからしばらくは大変だった。

お金も、時間も、友達もいなくて、ボロボロのニットを着て、

下北沢のマクドナルドで眠たい目をこすりながら課題に取り組む日々。

でも、いつでもやめてしまえると思えば気楽だった。

 

だんだんお金もたまって、いい友達もいっぱいできた。

ボロボロのニットを着る必要もなくなったし、

マックよりずっと良い喫茶店で勉強することだってできる。

部屋もだいぶ広くなった。

 

今でも色々不安になる。

自分は本当にやっていけるのだろうかって。

怖くて怖くて眠れなくなる。

追いかけても追いかけても尻尾も捕まえることができない。

 

祖母は、数年前に亡くなってしまったけれど、

きっと会えば同じことを言ってくれると思うんだ。

「あなたは何を失っても大丈夫。あなただから。」

その言葉を信じて僕は今日を生きる

 

 

僕だけじゃないよ、みんなそうだよ、と思う。

 

強い風が吹いて、淡い翼が折れてしまったら、

地べたを走って前に進めばいい。

傘をなくしてしまって、冷たい雨が降ってきても、

その先の虹を楽しみに、ぬかるんだ道を歩こう。

 

大切なものを大切に抱え込んでしまうのもいいけれど、

僕は、何を失ったっていいや、って思っていたい。

何を盗られたって、騙されたって、ご機嫌でいたい。

甘い空気をふわりふわりと身にまとって誰かを愛したい。

 

僕は自由だ。