before saying goodbyes
先月の暮れに、ちょっと厄介な問題を起こした知人がおりまして、
似たような問題を抱えている誰かに届けばいいなあと思いまして、
今彼に会えたらどんな話をするかな、って考え考え書きました。
お目汚し失礼いたします。
***
たぶん僕はお前より数段階頭が弱いので、
お前の言っていることを僕は半分も理解できていないし、
おそらくお前も僕を半分も理解していないと思う。
いつものようにお前は僕をいじめると思う。
「お前と話していると時間を無駄にするってどういうことかわかるわ」
「やっぱりお前と会うのは月1ぐらいがちょうどいいや。それ以上会うとイライラしそうだから」
と、僕を容赦なく傷つけてくると思う。
いいさ。構わない。僕が話したいから続ける。
無駄な時間をとってしまってすまない。
みんな間違いなくお前のことを尊敬していると思うよ。
賢いし、仕事できるし、背が高くてオシャレだし。
まあちょっと性格と口が悪くて、
そのせいで友達の数は限られている上に、
その数少ない友達も変わった人ばっかりだけど。
でもお前は、多分普通の人たちみたいな幸せはつかめない。
僕は頭が悪いから、お前みたいにスパンスパンと説明できないけど、
それでも何となくそれは理解しているつもり。
そしてお前は頭がいいから、ものすごい速度で色んなことを考えて、
先回りして、後々直面する痛みや悲しみをフライングゲットして、
いつものように絶望に浸っていたのだと思う。
沢山の人が、新しい時代の幕開けに胸を躍らせている間、
お前がどんな気持ちだったのかを想像すると、僕は苦しい。
でもお前の苦しみは僕の苦しみの何倍もあったんだと思う。
それで、全部終わらせてしまおうと決断してしまったわけだ。
ここまでが、僕なりの理解。
説明不足感否めないけど、僕の理解力ではこれが限界だった。
すまない。
※ひとつだけ忠告しておくと、手段はきちんと吟味した方が良かったと思うよ。
※実は頭弱いんじゃない?絶対怒られるから言わないけど。笑。
*
だけどさ。
覚えてるかな。大学3年生くらいだった頃、お酒飲んでてさ。
お前は僕と違ってすごく強くて、でもその日はちょっと煽りすぎて、
僕は僕で確かカシス=オレンジをグラス半分くらいしか飲んでないのに、
ワインをガブガブ飲んでたお前と同じくらいひどく酔っぱらってて、
ミッドタウンの公園をゲラゲラ笑いながら走り回って、
深夜4:00とかなのに2人そろってブランコをこいでて、
すれ違う外国人とハイタッチしあってさ、
職質に会ったけど東大の学生証見せたらスルーされてさ、
でその後、朝日が六本木の街をオレンジに照らしていく瞬間を、
恋人みたいにベンチに座ってぼんやり眺めてた、あの日のこと。
お前が言うように、この世界はとてつもなく不条理にまみれていると僕も思う。
神様はとんでもなく残酷で、お前のような人間を生み出してしまった。
そして、残念だけど、たぶん僕も、お前ほどではないにしても欠陥を抱えている。
明日のことや、その先の未来のことを考えると苦しくて苦しくて息ができなくなる。
だから、お前は全部終わらせようとしたんだよね。
でも、あの日、楽しかったのは僕だけじゃないはずだ。
どんなに醜い思想がこの世界に蔓延していたとしても、
街がオレンジ色に染まっていく刹那を美しいと感じたのは、
僕だけじゃないはずだ。違うかな。
もし違っていなかったとしたら、
そんなんでいいんじゃないかな、って僕は思う。
またお酒を飲んで走り回ろうよ。
また深夜の公園でゲラゲラ笑いながらブランコをこごうよ。
また一緒にオレンジに染まろうよ。
カッコよく、跡形もなく消えてしまって、「惜しい人を失った」と言われるより、
まだ歌もダンスもできるのに幕を下ろしてしまうより、
無様で、醜くて、色んな人から口々に文句を言われながら、
もう声も出ないしフラついているのにステージで歌い踊り続けてほしい。
お前はお前という役を、その身が朽ち果てるまで演じぬいてほしい。
そして、台詞はたった一言でもいいから、僕も共演者になりたい。
エンドロールに流れる雑多な文字列の中に、自分の名前を見つけたい。
ハッピーエンドの筋書きではないけれど、こんなに美しい物語を僕は他に知らないから。
幸せになれなくたっていいじゃないか。
僕は、10年、20年先の幸せよりも、
目と鼻の先2,3センチメートルの即物的で下品な快楽を、
他の誰でもない、お前とわかちあいたい。
それだけじゃダメかな。
それだけじゃ、お前の言う、
「この世界に産み落とされた理由」とやらには、
到底肉薄できないかな。
*
と、色々書いてしまったけれど、
全部僕の独りよがりですね。わがままですね。
やはり僕は誰かの人生に責任なんか持てないし、
やはり僕は誰かを言葉で縛ってしまいたくない。
繰り返しになるけど、僕はお前を救うことはできない。
図に乗らせないために付け加えておくと、お前にも僕は救えない。
だから好きにすればいいと思う。
好きにするしかないんだと思う。
そうでなくても、サヨナラはいつも突然やってくるからさ、
いつものように「ありがとう」と、
精一杯の願いと果てしない不安を込めて「またね」と、
そうお前に伝えたい。
***
令和という時代が、
皆様にとって少しでも悲しみの少ないものになることを、
心から願っております。