Brotherhood

 

僕が不平等を感じるのは、

彼のような、世界中の幸せを体現しているような男を見るときだ。

 

彼はいつも、キラキラ輝く明日の話をする。

大好きな家族の話、恋人の話、友達の話、

将来自分がどうなっていたいのか、の話。

 

未来を疑わないでいられるのはどうしてだろう。

疑いなく周りの人たちを愛せるのはどうしてだろう。

僕を疑わないでいられるのはどうしてだろう。

 

そんな彼を見て、僕、いつも胸が苦しい。

羨ましいのか、馬鹿にしているのか、わからないけど。

いや、ただ、彼のことが好きなだけなのかもしれないけど。

 

「いつか娘と一緒にデートをするんだ」と話す彼の、

まっすぐな瞳を真っ黒に塗りつぶしてしまいたい。

その勢いで全部をぐちゃぐちゃにしてしまいたい。

 

けれど彼は、僕の内側に渦巻く一切の感情を知らない。

「お前は?」と、いつものように僕に問いかける。

そして、僕も、喉の奥からこみあげる感情を握りつぶす。

 

大丈夫、大丈夫と、何度も言い聞かせてきたけれど、

やっぱりしんどいなあと思うことが、最近すごく増えて。

大人になればなるほど、心の体力はなくなっていくんだね。

 

彼、僕のこと、同胞と呼んでくれたけど、嬉しかったけど、

きっと一生かかっても本物の同胞になんかなれない。

根本的なところが全然違っているのだから。

 

それとも、

20年、30年と歳を重ねていく中で、

いつか何かがマージして同胞になっていくのだろうか。

 

彼と対極にいるであろう友人に問いかけてみても、

彼は彼で、20年や30年なんて先のことは考えられない。

だって、僕ら、明日や明後日のことでいっぱいいっぱいだから。

 

けれど、とりあえず今、たったひとつ言えることは、

僕のことを同胞と呼ぶ彼のことを

僕は、赦せなかった。