不道徳。

 

身体にいいものって
必ずしも美味しいとは限らないじゃん
てかむしろ不味いものが多いやん
そう思いませんか。
 
健康的なものを美味しいと思えて
綺麗なものばっか食べて生きてけたら
すげー幸せだと思いませんか
僕はそうなれるように頑張ってる。
 
でもさ、人生もそういう感じでやってくのはキツくて。食生活以上に。
綺麗なもんばっか食って生きてきたんだろうなコイツ、的な人が
唐突に僕の懐に飛び込んできて
なんの穢れも無い瞳を輝かせながら
僕の身体にその手を触れようとしてくる
 
やめろよ。
はなせ。
汚れるのはお前なんだぞ。
 
僕ね、
割とそういう人間に擬態するの得意でね。
綺麗な服を着て口元笑わせとけばね、
大抵の奴らは騙せる自信あるんですわ。
 
だけどその手を触れちゃ駄目です。
たちまち魔法は解けてしまう。
浦島太郎ばりの大劣化。急老化。
いや、単に本体が出てくるだけなんやけど。
 
君はね、
僕の手を離れても
正しい愛の元に帰っていけるでしょう
綺麗な花の蜜だけを吸って生きていけるでしょう
不道徳なものなんかいらんでしょう、って。
 
早く気づいてくれよ、
早く暴いてくれよ。
 
違うな。
本当は気づかれたくなんかない。
 
僕はそいつが世界で一番羨ましい。
羨ましくて羨ましくて胸が張り裂けそうさ。
でも、その張り裂けそうな胸を押さえて、
きったない本体をできるだけ隠して、
アイロンかけたてのピカピカの服を身にまとい、
道徳的なものだけで出来た人のフリをして、
街を闊歩する。堂々と。ビクビクしながら。
 
息苦しくて、
代謝性アシドーシスになっても。
綺麗なものだけで出来てる誰かを
傷つけないように。
 
それは優しさ?
それとも独りよがり?